院長の情熱(治療について)|リウマチ科みやもと 滋賀県長浜市

院長の情熱(治療について)

リウマチ診療で
やってはいけないつのこと

  1. 其の壱関節を触診しない医師は、関節リウマチ診療を行ってはならない!
  2. 其の弐「リウマトイド因子(RF)」や「抗CCP抗体」が正常という理由で、関節リウマチを否定してはならない!
  3. 其の参「CRP」・「赤沈」・「MMP-3」などの炎症反応が正常という理由だけで、関節リウマチを否定あるいは
    関節リウマチの状態が良いと判断してはならない!
  4. 其の肆関節の痛みがないという理由だけで、関節リウマチの状態が良いと判断してはならない!
  5. 其の伍関節リウマチ診療において、ステロイドを漫然と投与してはならない!(ただし、例外はある)
  6. 其の陸関節痛+リウマトイド因子(RF)高値は、関節リウマチとは限らない!

関節リウマチについて(症状・治療)

関節リウマチの症状

関節リウマチは、関節包や腱鞘などを裏打ちしている『滑膜』に炎症をきたし、関節滑膜炎や腱鞘滑膜炎を引き起こします。

【関節滑膜炎(手関節伸側)】
関節滑膜炎(手関節伸側)

理論上、滑膜が存在する部位であれば、どこでも関節リウマチを発症しうるので、その症状は多彩であり、患者さん一人一人発症様式が異なることから、一様に語ることができません。

その中でも、手指や手、足趾は罹患頻度の高い部位です。初診のある関節リウマチ患者さんの手指・足趾の写真を以下に示します。

関節リウマチ患者さんの手指の写真
関節リウマチ患者さんの足の写真

1枚目の写真では、右小指の第2関節(近位指節間関節:PIP関節)が紡錘状に腫れています。これはこの部位に関節滑膜炎が生じた結果です。

2枚目の写真では、左Ⅱ趾とⅢ趾間および左Ⅲ趾とⅣ趾間が離開しています。これは、足趾の基部にある中足骨頭間の滑液包炎により生じるものです。

【滑液包炎(中足骨頭間)】
滑液包炎(中足骨頭間)

皆さんの中には、腱鞘炎と診断されたことのある方がおられるでしょう。その原因として、関節リウマチが隠れていることがあるため注意が必要です。腱鞘炎というのは診断名ではなく、単に腱鞘に炎症があるということを表現しているに過ぎません。大事なことは、腱鞘炎の原因が何かということです。

【腱鞘滑膜炎】

浅・深指屈筋腱(MCP関節)
浅・深指屈筋腱(MCP関節)
尺側手根伸筋腱(第Ⅵ伸筋腱区画)
尺側手根伸筋腱(第Ⅵ伸筋腱区画)
長・短橈側手根伸筋腱(第Ⅱ伸筋腱区画)
長・短橈側手根伸筋腱(第Ⅱ伸筋腱区画)

足の甲が腫れて痛むこともあります。以下は、痛みが軽度のため症状発現後何年も医療機関を受診しなかったケースです。初診時にはすでに足根骨に関節破壊を認めています。すでに生じてしまった関節破壊は残念ながら元に戻せません。(リウマチ専門医・指導医としての視点参照)

【関節滑膜炎(距舟関節・楔舟関節)】

距船関節図1
距船関節図2

くるぶしが腫れて痛むこともあります。内くるぶし(内果)のすぐ後方に後脛骨筋腱が走行していますが、関節リウマチでは後脛骨筋腱の腱鞘滑膜炎は比較的特徴的と言われています。

【腱鞘滑膜炎(後脛骨筋腱)】
腱鞘滑膜炎(後脛骨筋腱)

かかとが腫れて痛むこともあります。以下の図では、踵骨後方滑液包の炎症が近傍のアキレス腱に波及することにより、アキレス腱炎をきたしています。アキレス腱が紡錘状に腫脹し、フィブリラーパターンが不明瞭となっています。

【踵骨後方滑液包炎・アキレス腱炎】

踵骨後方滑液包炎
アキレス腱炎

肘・肩・股・膝・足関節や、時に顎関節にも症状が出ることがあります。

今まで述べてきたように、関節リウマチの症状発現部位は患者さん一人一人で異なります。また、一人の患者さんでも、時間経過に伴い色々な関節に腫れや痛みが出現します。

肘関節(屈側)
肘関節(屈側)
肘関節(伸側)
肘関節(伸側)
膝蓋上嚢
膝蓋上嚢
Baker嚢腫
Baker嚢腫
三角筋下滑液包
三角筋下滑液包

関節リウマチの治療

Q.関節リウマチと診断された後、治療はどのような流れになりますか?

最初に伝えたいことは、『絶対にステロイドやNSAID(ロキソプロフェンやセレコキシブなどの痛み止め)だけで治療してはいけない』ということです。これらを使用すれば、関節の痛みや腫れは軽減するかもしれませんが、関節破壊の進行を抑制することはできません。痛み・腫れが治まっても、知らず知らずのうちに関節破壊が進行し、関節の変形をきたしてしまいます。

関節リウマチと診断されれば、必ず従来型合成抗リウマチ薬(csDMARD)を開始します。その中でも最初に考慮する薬剤が、メトトレキサート(MTX)です。ただし、ここでも注意が必要で、関節リウマチ患者さん全例にMTXを投与して良いというわけではありません。

高齢・腎障害・間質性肺疾患・認知症などを有する方では、慎重投与もしくは禁忌(投与不可)となります。時に生命に関わるような副作用を生じることもあるため(総合内科専門医としての視点参照)、慎重にその適応を見極める必要性があります。

MTXを忌避した方が良い場合や禁忌の場合には、他のcsDMARDを開始します。他のcsDMARDには、サラゾスルファピリジン・ブシラミン・イグラチモド・タクロリムスなどがあります。これらの薬剤にも副作用があるため、処方医はどのような症状が出た場合にどう対応すべきか、きちんと患者さんに説明する責任があります。

薬剤の副作用は絶対にゼロにはなりません。ただし、有事の対応の仕方でダメージを小さくすることはできます。そのためには、患者さん側も医師に「おまかせ」の姿勢ではいけません。疾患や薬剤としっかり向き合い、正しい知識を身につけることが患者さんにも求められるのです。

Q.MTXなどの従来型合成抗リウマチ薬(csDMARD)で効果不十分の場合、次にどのような薬剤を使用するのでしょうか?

MTXなどのcsDMARDで効果不十分の場合、生物学的製剤(bDMARD:BIO)またはJAK阻害薬(tsDMARD)を追加しますが、関節リウマチ診療ガイドライン2020では、長期の安全性や医療経済の観点から、BIOを優先すると記載されています。

BIOには作用機序から3系統の薬剤(TNF阻害薬:レミケード・エンブレル・ヒュミラ・シンポニー・シムジア、IL-6阻害薬:アクテムラ・ケブザラ、T細胞選択的共刺激調節薬:オレンシア)があります。MTXを併用していない場合、BIOの中ではIL-6阻害薬を優先します。

点滴もしくは皮下注射製剤であるBIOと異なり、JAK阻害薬は内服薬(飲み薬)です。即効性のある薬剤であり、BIOやJAK阻害薬の使用歴がない患者さんに投与した場合、多くは数日以内に効果発現を認めます。

私は滋賀県内で最もJAK阻害薬の使用数が多い医師になりますが、高齢発症関節リウマチ(EORA)のように肩・股・膝関節などの大関節から急性の経過で発症し、急激に日常生活動作が制限されるような症例に対し、通常量の半量で使用するケースが多くなっています。

リウマチ専門医・指導医としての視点

関節リウマチの診断

Q.血液検査だけで関節リウマチかどうか診断できますか?

血液検査だけで関節リウマチの診断がつくのか?答えはNOです!血液検査だけで診断が可能であれば、リウマチ専門医は不要です。

関節リウマチを疑った場合、『リウマトイド因子(RF)』や『抗CCP抗体』を測定しますが、RFや抗CCP抗体が基準範囲内であれば、残念ながらほとんどの医師が『関節リウマチではない』と判断してしまっています。

関節リウマチであっても、RFや抗CCP抗体が高値となる割合は約70%にすぎないため、これらが基準範囲内であるという理由だけで関節リウマチを否定することはできません。

以下の写真は、RF・抗CCP抗体正常の関節リウマチ患者さんの手のレントゲンです。『関節リウマチではない』と複数の医療機関で言われ私の外来を受診されました。

右手関節はすでに関節破壊が進行しています。

RF・抗CCP抗体正常の関節リウマチ患者さんの手のレントゲン

関節リウマチの診断は決して簡単なものではありません。多くの関節リウマチ患者さんを診ているリウマチ専門医ほど、その診断の難しさを痛感しています。

Q.血液検査で炎症反応が正常なので関節リウマチではないと言われました。本当でしょうか?

血液検査には『CRP』『赤沈(血沈)』『MMP-3』などの炎症反応の指標があります。関節リウマチは、関節炎つまり関節の炎症をきたす疾患なので、これらの炎症反応が必ず上昇するものと思われるかもしれませんがそれは誤りです。

手指・足趾・手関節などは小さな関節のため、それらの関節に炎症があっても多くの場合炎症反応は正常です。手首の腫れを主訴に来院された患者さんの手関節伸側のエコー所見および血液検査所見を示します。

手関節伸側のエコー所見および血液検査図
RF 6 (U/ml) 抗CCP抗体 <0.5 (U/ml) CRP <0.05 (mg/dl)

関節滑膜炎を認めますが、RF・抗CCP抗体だけでなく、炎症反応であるCRPも全く正常です。

Q.リウマトイド因子(RF)が高いので関節リウマチと診断されました。本当でしょうか?

関節リウマチを疑った際には、リウマトイド因子(RF)と抗CCP抗体を測定します。

RFは健康診断や人間ドックのオプションでも測定されることのあるマーカーですが、その結果の解釈には注意が必要です。RFは関節リウマチだけでなく、他の疾患や健常人でも高くなることがあるからです。これを偽陽性(ぎようせい)と呼びます。

つまり、変形性関節症(へバーデン結節など)や更年期による関節症状の方が採血をされてRFが陽性であった場合、関節リウマチと誤診されてしまう恐れがあるということです。仮にRFが100(U/ml)以上の著明高値であったとしても、関節リウマチと診断できるものではありません。

抗リウマチ薬はどの薬剤にも副作用があるため、関節リウマチと診断する際にはしっかりと他の疾患を除外することが重要です。

Q.ではどのようにして関節リウマチと診断するのでしょうか?

関節リウマチは血液検査だけで診断できるものではないことはお分かりいただけたかと思います。関節リウマチと診断するためには、最初のステップとして、関節滑膜炎による『関節の腫れ』を捉える必要があります。

この『関節の腫れ』を捉えるためには、関節の触診が不可欠です。関節の触診はリウマチ診療において最も重要な診察です。『触診なくしてリウマチ診療なし』です。もし関節を触診しないリウマチ専門医がいたとしたら、その医師はリウマチ専門医ではないと判断してください。

ただし、関節によっては触診では腫れているかどうか判断しにくい部位があります。また、腫れが軽度であればやはり触診でそれを捉えることが難しいこともあります。そのような時に活躍するのが『関節エコー』です。リウマチ医にとって関節エコーは聴診器のような役割を果たすものであり、侵襲なく施行できる検査です。現在のリウマチ診療にとっては、欠かせない存在と言っても過言ではないくらい、その役割は大きなものです。以下に関節エコー写真をいくつか提示致します。

三角筋下滑液包炎
三角筋下滑液包炎
肘関節滑膜炎
肘関節滑膜炎
Baker嚢腫
Baker嚢腫
第Ⅵ伸筋腱区画(尺側手根伸筋腱)腱鞘滑膜炎
第Ⅵ伸筋腱区画(尺側手根伸筋腱)
腱鞘滑膜炎
図
第Ⅱ伸筋腱区画(長・短橈側手根伸筋腱)腱鞘滑膜炎
第Ⅱ伸筋腱区画(長・短橈側手根伸筋腱)
腱鞘滑膜炎

触診や関節エコーで関節滑膜炎が捉えられたとしても、すぐに関節リウマチと診断できるものではありません。関節滑膜炎を呈する疾患は数多くあるため、リウマチ医には関節リウマチ以外の疾患に関しても幅広くかつ深い知識が求められます。

問診・身体診察・血液検査・尿検査・関節エコー・レントゲン検査などから他疾患を除外し総合的に関節リウマチか否か判断しますが、症状や所見が一時期に出揃っていない場合には、時間経過も踏まえた上で最終的に判断しなければなりません。

このように、関節リウマチの診断には非常に高い専門性が要求されるのです。

関節リウマチの評価

Q.関節の痛みがなければ関節リウマチの状態は良いと判断していいのでしょうか?Q.炎症反応(CRP・赤沈・MMP-3)が正常なら、関節リウマチの状態は良いと判断していいのでしょうか?

関節リウマチ診療において、患者さんが一番に求めるものは何か?それは何といっても『痛みを取ってほしい』ということだろうと思います。患者さんが痛みを感じずに日々の生活を送りたいと思われるのは当然のことでしょう。

では、痛みがなければ関節リウマチの状態は良いと判断していいのでしょうか?たしかに、治療効果が出れば関節の痛みは良くなりますので、ある意味では正しいと言えるのかもしれません。しかし、ここにも落とし穴があります。関節の痛みがなくなっていても『関節の腫れ』が残っている場合には、必ずしも関節リウマチの状態が良いとは限らないのです。

実例を挙げます。40代・男性、右手関節に時々痛みがありますが、日常生活に支障はないとのことです。血液検査では、CRP 0.07mg/dl、MMP-3 87.6 ng/mlと炎症反応も正常です。しかし、エコーでは尺骨頭に覆いかぶさるように腫脹した滑膜を認め、同部に一致してまるで『炎のような』血流シグナルが見て取れます。

エコー画像
CRP 0.07 (mg/dl) MMP-3 87.6(ng/ml)

これを放っておくとどうなるのでしょうか?次に示すのは別の患者さん(50代・女性)の手関節のレントゲン写真です。前医で、『痛みがなく炎症反応が正常だからリウマチの状態は良好』と判断されていました。しかし、徐々に関節破壊が進んでしまいました。

発症時
発症時
2年8ヶ月後
2年8ヶ月後
4年4ヶ月後
4年4ヶ月後

これらの事例は、痛みや炎症反応だけで関節リウマチの状態を評価すると、誤った判断をしてしまう恐れがあるということを教えてくれるものです。

もし、あなたを診ているリウマチ専門医が、痛みと炎症反応だけでリウマチの状態を判断しているとすれば、やはりその医師は真のリウマチ専門医ではないと判断してください。

診断のところでも述べたように、リウマチの評価においても基本となるのはやはり触診であり、適宜関節エコーを施行し触診を補うということが重要です。

痛みがないからといって炎症がないとは限りませんし、逆に痛みがあるからといってそこに炎症があるとは限りません。自覚症状と触診・関節エコー所見、血液検査所見、レントゲン所見などを常に対比しながら関節リウマチの状態を判断する必要があるのです。

関節リウマチ治療において痛みを取ることが重要であることは言うまでもありませんが、それだけではダメなのです。関節リウマチは、一度生じてしまった関節の破壊を元に戻すことができない疾患だからこそ、いかに関節破壊の進行を抑えるのかが重要なのです。

種々の薬剤を使用できるようになった時代だからこそ、若い患者さんには特にしっかり理解いただきたいと思っています。

総合内科専門医
としての視点

なぜ関節リウマチを内科医が診るのか?不思議に思われる方が多いかもしれません。

それは、『関節リウマチは関節が痛くなる病気なのだから受診するなら整形外科』という考えに基づいたものであると思います。

確かにそれは一理あります。整形外科医は、関節を含めた運動器のスペシャリストです。関節を機能という視点で正しく評価できるという点や関節注射ができるという点において、我々内科医は整形外科医には到底及ばないところであり、関節リウマチ診療において整形外科医の果たす役割の大きさは論を俟たないものです。

ただし、ここで留意いただきたいことがあります。それは、関節リウマチは関節だけが障害される疾患ではないということです。 関節リウマチでは、眼(シェーグレン症候群)・甲状腺(慢性甲状腺炎)・肺(間質性肺疾患)・腎(アミロイドーシス)など、種々の臓器に合併症を生じる可能性があります。

一見関節リウマチと関連のないように思われる症状が、関節リウマチの合併症の可能性があるため、我々リウマチ医には全身を診る姿勢が求められます。この点において、リウマチ診療は整形外科的な側面だけでなく、総合内科的な面を併せ持つということができるかもしれません。

【関節外合併症】

間質性肺疾患
間質性肺疾患
心膜炎
心膜炎
髄膜炎
髄膜炎
膀胱アミロイドーシス
膀胱アミロイドーシス
(大量の肉眼的血尿により膀胱タンポナーデを呈し輸血施行)

また、治療においても、年齢、認知機能、腎機能、肺病変などをしっかり把握した上で薬剤選択を行う必要性があります。

例えば、アンカードラッグの位置付けであるメトトレキサート(MTX)を腎機能が悪い方に使用した場合や誤って連日内服した場合には、生命に関わるような重篤な血球減少を生じる可能性があります。

MTXによる重篤な血球減少の前駆症状としてしばしば多発性口内炎が出現します。多発性口内炎がMTXによる副作用であると医師と患者さんがしっかり認識していなければ、多発性口内炎出現後もMTX内服が継続されてしまい、結果的に生命に関わるような重篤な血球減少を生じる可能性があります。

【メトトレキサートによる副作用(多発性口内炎)】

多発性口内炎

下図のようにMTXを含めた抗リウマチ薬の副作用は種々の臓器に出現する可能性があります。

関節しか診ないという診療スタンスはリウマチ診療においてあってはならないものです。ブレーキやルームミラー・サイドミラーのない車に皆さん乗りたいと思いますか?

【メトトレキサートによる副作用(リンパ増殖性疾患:多発性肺腫瘤)】

リンパ増殖性疾患:多発性肺浮腫癌図1
リンパ増殖性疾患:多発性肺浮腫癌図2
リンパ増殖性疾患:多発性肺浮腫癌図3

【メトトレキサートによる副作用(リンパ増殖性疾患:多発性脳腫瘤)】

リンパ増殖性疾患:多発性脳腫癌図1
リンパ増殖性疾患:多発性脳腫癌図2

【メトトレキサートによる肝線維化HBV(-)HCV(-)アルコール(-)】

メトトレキサートによる肝線維化図1
メトトレキサートによる肝線維化図2
メトトレキサートによる肝線維化図3

合併症や副作用が生じても、各専門科が診ればいいのではないか?と思われるかもしれません。確かに一人で諸臓器の合併症や薬剤の有害事象に対応することは不可能であり、他科との連携は必要不可欠です。

ただし、各専門科に完全に任せっきりではいけません。各専門科はその専門臓器からの視点でしか判断しません。人は各臓器の寄せ集めで成り立っているものではなく、それぞれが密接な関係にあります。常にリスク・ベネフィットバランスを考慮しなければ、「臓器を診て人を診ず」になってしまいます。

リウマチ医には全体像を把握しておくコンダクター(指揮者)としての姿勢が求められるのです。

骨粗鬆症学会認定医
としての視点

  • 骨密度評価のゴールドスタンダードは、腰椎および大腿骨近位部でのDXA(デキサ)法である。
  • 骨粗鬆症を骨密度だけで評価してはならない。骨折の既往の確認や胸椎/腰椎(側面)X線の定期的な撮影が重要。

関節リウマチは骨粗鬆症を合併しやすいことが知られています。したがって、関節リウマチ診療においては骨粗鬆症合併の有無にも留意が必要です。

骨粗鬆症の診断および治療効果判定においては、骨密度を測定することが重要です。ただし、その際に注意すべき点があります。

一つは、骨密度を測定する方法にはいくつかありますが、腰椎および大腿骨近位部で測定するDXA(デキサ)法がゴールドスタンダードということです。他の方法では、骨粗鬆症を正確に診断することができない場合や、治療効果判定に不適な場合があります。

また、DXA法であっても腰椎のみでの測定の場合、腰椎の退行変性などの結果見かけ上高値となることがあるため、原則として腰椎だけでなく大腿骨近位部も同時に測定します。

もう一つは、これは特に強調したい点ですが、骨密度の値だけで骨粗鬆症の評価をしてはならないということです。

骨強度は、骨密度だけでなく骨質によっても規定されます。骨密度が保たれていても、骨質が劣化すれば骨折が生じます。また、椎体(背骨)は骨折しても約2/3ではほぼ無症状、いわゆる『いつの間にか骨折』と言われています。

以下に実例を示します。56歳の女性で、骨密度(DXA法)は若年成人の平均値と比較した値が、腰椎で100%、大腿骨近位部で86%でした。骨密度の値だけみれば正常という判断になります。しかし、胸椎/腰椎(背骨)のX線では、図の通り第11胸椎に骨折を認めました。詳細に問診すると、数ヶ月前に転倒した後しばらく腰痛があったとのことでした。

骨粗鬆症学会認定医としての視点イメージ画像

このように、骨粗鬆症の評価の際には、骨密度測定だけでなく、胸椎/腰椎のX線も定期的に撮影し、新規骨折の有無をみることが重要です。

骨粗鬆症リスクのある患者さんでは、市立長浜病院や長浜赤十字病院と連携し、年1回の骨密度測定(DXA法:腰椎・大腿骨近位部)および胸椎/腰椎X線撮影を行います。

診療データ
(2022年5月1日時点)

開院してから1ヶ月が経過した2022年5月1日時点での関節リウマチ(RA)診療データを示す。ここでは、診断の不確実性を除外するため、抗CCP抗体陽性例のみを抽出した。

2022年4月に当院を受診した抗CCP抗体陽性RA患者数は122名であり、そのうちデータを取得できたのは99名であった。なお、全例が以前より小生が診ている患者さんであり、以下のデータは小生の診療実態をそのまま反映したものとなっている。

【年齢】

中央値は66歳(範囲:22-92歳)であった。高齢者では相対的に血清反応陰性率が高くなるため、抗CCP抗体陰性例を含めたRA全体の年齢と比較すると約5歳低くなっている。

【男女比】

男性23%、女性77%であり、RAの一般的な男女比と大きな差異はなかった。

【罹病期間】

中央値は8.5年(範囲:1-42年)であった。罹病期間2年以下は11%、3~5年は17%、6~10年は36%、11年以上は36%であり、比較的罹病期間の長い症例が多かった。

【RF・抗CCP抗体】

抗CCP抗体陽性例のみを抽出しているため、その陽性率は100%である。抗CCP抗体価の中央値は147.5 U/mL(範囲:4.6-1955.7 U/mL)であった。RF陽性率は93.4%であり、RFの中央値は78.5 IU/mL(範囲:3-1233 IU/mL)であった。

RF・抗CCP抗体高力価陽性であることは、関節破壊進行の予後不良因子であり、下記に示すものはそのような背景を持った集団を対象としたデータであることを申し添えておく。

【圧痛関節数(TJC)・腫脹関節数(SJC)】

ここでは28関節を対象としているが、実際の診療ではほぼ全例足および足趾の触診も行っている。TJCおよびSJCの中央値はともに0関節(範囲:0-7関節)であった。

【患者全般評価(PtGA)・医師全般評価(PhGA)】

VAS評価(0-100)である。PtGAの中央値は9(範囲:0-71)、PhGAの中央値は11(範囲:5-38)であった。

【CRP】

CRPの中央値は0.06 mg/dl(範囲:0.02-4.57 mg/dl)であった。0.1未満は62%、1未満は95%であった。

【CDAI】

CDAIの中央値は2.3(範囲:0.5-19)であった。寛解(2.8以下)は58%、低疾患活動性(10以下)は37%、中疾患活動性(22以下)は5%、高疾患活動性(22<)は0%であった。

【SDAI】

SDAIの中央値は2.52(範囲:0.52-20.18)であった。寛解(3.3以下)は62%、低疾患活動性(11以下)は33%、中疾患活動性(26以下)は5%、高疾患活動性(26<)は0%であった。

【メトトレキサート(MTX)】

MTX投与率は58%であった。RA診療においてMTXはアンカードラッグであるが、その投与率は比較的低い結果であった。腎障害や過量内服による重篤な血球減少リスクを忌避するため、当院では80歳以上に対するMTX投与は原則行っていない。

MTX投与量の中央値は10mg/週であった。その内訳は、4mg/週(1%)、6mg/週(7%)、8mg/週(12%)、10mg/週(39%)、12mg/週(32%)、14mg/週(4%)、16mg/週(5%)であり、10mg/週以上での使用が約8割であった。

【MTX以外のcsDMARDs】

本邦において使用可能なcsDMARDsは10種類以上あるが、当院ではMTX以外にタクロリムス(TAC)・サラゾスルファピリジン(SASP)・イグラチモド(IGU)・ブシラミン(BUC)のみ使用している。

それぞれの使用率は、TAC(16%)、SASP(29%)、IGU(14%)、BUC(2%)であった。

【ステロイド】

ステロイド投与率は5%と極めて低い値であり、今回のデータの中で最も特筆すべき点である。ステロイドは抗リウマチ薬効果発現までのあくまで一時的な補助的治療であるという関節リウマチ診療ガイドライン2020に則り診療にあたってきた結果であると自負する反面、クリニックでは病院と比較し、合併症を有している例やD2T-RAが少ないといった要素もあるであろう。

【生物学的製剤(BIO)】

BIO使用率は25%であった。その内訳は、TNF阻害薬(60%)、IL-6阻害薬(28%)、T細胞選択的共刺激調節剤(12%)であった。当院使用のTNF阻害薬の多くは、その費用面からバイオシミラー(後続品)である。

【JAK阻害薬(JAKi)】

小生は滋賀県内において最もJAKi使用が多い医師である。JAKi使用率は17%であった。関節リウマチ診療ガイドライン2020では、JAKiはBIOと同列の位置付けにありながらも、長期の安全性および医療経済からBIOを優先することとなっている。しかし、JAKiは速効性があることや、BIOと異なり注射手技を習得する煩わしさはないため、患者さんによってはよりベネフィットの大きい場合もあるだろう。

【総括】

BIOとJAKi使用率の合計は40%を超えており比較的高い結果であった。しかし、前述のように全例が抗CCP抗体陽性で、関節破壊進行予後不良因子を有していることを鑑みた際、MTXを中心としたcsDMARDsおよびBIO・JAKiを駆使しながら、ステロイド使用率を5%に抑え、95%もの患者さんが寛解もしくは低疾患活動性を維持しているという結果は、リウマチ専門医・指導医の立場として決して恥ずかしいものではないであろう。

リウマチ専門クリニック
TEL.0749-53-3887
:土曜日は9:00~13:30まで
※休診日:木・日・祝・第4月曜日
診療時間 日.祝
9:00~16:00
院 長
宮本 茂輝
住 所
〒526-0034 滋賀県長浜市弥高町269番
F A X
0749-53-3877