関節リウマチと「血球」

  • 2024.09.22

 さて、関節リウマチ(RA)と臓器シリーズの第4弾です。「肺」「腎」「肝」はRA診療において留意しなければならない三大臓器(私が勝手にそう呼んでいますが、現にそうだと思います)です。それと同様に重要なもの・・・それが今回のテーマである「血球」です。

 血球には、赤血球、白血球、血小板があります。

 赤血球が減少すれば「貧血」という状態になります。貧血になると立ち眩みや全身倦怠感、それが高度になれば心臓に負担がかかって浮腫(むくみ)などの症状が出現します。抗癌剤などの投与により白血球が高度に減少すれば「感染症」のリスクとなります。血小板が減少すると出血のリスク(易出血性)となります。

 メトトレキサート(MTX)やイグラチモド(ケアラム®)、サラゾスルファピリジン(アザルフィジン®)などの抗リウマチ薬は、しばしば血球減少を生じるために定期的に血液検査を施行しこれらをモニタリングする必要性があります。特にMTXは脱水などの状況により腎障害が生じると、その血中濃度が上昇し、突如生命に関わるような重篤な血球減少が生じえます。猛暑が続くこの時期は、我々リウマチ医が最も神経を使う時期なのです。

 リウマチ患者の皆さん、お手元の血液検査結果を取り出してみましょう。そこには、赤血球、白血球、血小板という項目が見つかるでしょう。皆さんの普段の値、つまりベースの値がどれぐらいなのかを知っておくことは大事なことです。ちなみに、貧血は赤血球数というよりも「ヘモグロビン」という項目で判断します。

 ここからはちょっとマニアックな話をします。ほとんどの整形外科医の方が知らない話です。赤血球やヘモグロビンの項目のすぐそばに「平均赤血球容積(MCV)」という項目があると思います。

 MCVはヘマトクリットを赤血球数で割ると算出されるものです。これは、赤血球の大きさを反映していますが、貧血の患者さんを診た場合に、MCVによってその原因をある程度推定することができます。80以下が小球性貧血、80~100が正球性貧血、100以上が大球性貧血と3つに分類できます。

 小球性貧血の原因のほとんど(特に若年女性のおいて)は鉄欠乏なのですが、体に何らかの炎症が生じる(RAで関節炎が強い場合など)と、鉄がうまく利用できず小球性貧血となることがあります。

 MTXを内服している方は、その内服前後でのMCVの推移を確認してみましょう。きっと、MTX内服前と比較し内服後はMCVが上昇していると思います。それは、MTXは葉酸拮抗剤であり、葉酸欠乏となると大球性に傾くからなのです。したがって、MTXを内服しているリウマチ患者さんでは、しばしばMCV100~110となります。MCVが110を超えているのであれば、先程の重篤な血球減少のリスクとなるため、MTXを中止するか、投与するにしてもかなり慎重に対応しなければなりません。

 もし、MTX開始前からMCVが100を超えているとすれば、その原因の一つに「アルコール過剰摂取」が考えられます。お酒を飲まれる方のほとんどはγ-GTPばかり気にされていますが、慢性的にアルコールを過剰に摂取しているとMCVが上昇します。これは、アルコール依存症診療に携わる精神科医と内科医でも一部しか知らない知識かもしれませんが、MCVが高ければ(もちろん他の原因の可能性はありますが)、「この人酒飲みかな?」という目で見ます。

 ちなみに、日本酒のことばかりブログに載せている私のMCVはと言いますと・・・直近3年間の値はMCV86~89です。よって大酒家でないことが証明されました。