問. メトトレキサートによる吐き気にどう対応する?
- 2023.05.05
昨日に続いてのテスト形式です。架空症例です。
50歳・女性。6ヶ月前に関節リウマチ(RA)と診断され、メトトレキサート(MTX)が開始となった。MTX12mg/週(毎週日曜日のみ内服:朝食後6mg・夕食後6mg)により、関節痛はほぼ消失、関節腫脹もなく、『臨床的寛解』を達成できた。
しかし、日曜日の夕方から月曜日にかけての嘔気(=吐き気)や倦怠感(=だるさ)が強く、日常生活にも支障をきたしていた。
主治医はMTX12→10→8mg/週と、MTXを漸減(=段階を踏んでゆっくり減量)した。その結果、嘔気や倦怠感はやや改善を認めたが、関節炎が再燃し、手指や手、膝関節の腫れや痛みが出現した。
今後の治療戦略として正しいのはどれか?
① 4/29ブログ記事にあるような、従来型合成抗リウマチ薬(タクロリムス・サラゾスルファピリジン・ブシラミン・イグラチモドなど)を追加を検討する。
② 生物学的製剤やJAK阻害薬の追加を検討する。
③ メトトレキサートを内服(飲み薬)から皮下注製剤に変更する。
答えは、「すべての選択肢が正解となりうる。」です。なぜこんな中途半端な解答なのか?と思われる方がおられるかもしれませんが、実臨床の世界というのは、答えは一つではありません。治療方針は、患者さんの収入や家族構成、病気の捉え方などを汲んで決定していくものです。もちろん、患者さんの状態によっては選択肢が限定されるため、一つの選択肢しか提示できないこともありますが、私の診療では選択肢を一つのみ提示し患者さんに押し付けるようなことはほぼありません。
今までですと、①か②の選択肢しか提示できませんでしたが、昨年11月にMTXの皮下注製剤である『メトジェクト皮下注』が発売開始となり、治療選択肢の幅が広がりました。架空症例のようなケースでは、①~③はいずれも選択肢にはなるものの、皮下注製剤の場合、嘔気の大幅な軽減が期待できるため、③をすすめることが多くなっています。
患者さんからすると、『おまかせの医療』は楽かもしれませんが、その姿勢は自らの人生を他人に預ける危険な行為です。専門医として選択肢をきちんと提示し、患者さんの意向を踏まえながら(しかし、患者さんが明らかに間違った判断をしている際には止めにかかります)共に治療を選択する・・・これからも、当たり前のことを当たり前にできるよう頑張っていきます。