“立春朝搾り”

  • 2024.02.04

 昨日は節分・・・本日より二十四節気の「立春」です。立春は旧暦でいうところの一年の始まりです。上巳(桃)の節句の「白酒」や重陽の節句の「菊酒」など、季節とお酒とは深い関わりがありますが、皆さん「立春朝搾り」というものをご存じでしょうか?

 「立春朝搾り」とは、一年の始まりである立春の早朝に醪(もろみ)を上槽(搾ること)し、直接瓶詰めすること(直汲みと言います)およびその商品を指します。日本名門酒会加盟の酒販店さんが自ら瓶詰めも手伝った後、商品をお店に持ち帰りその日のうちに顧客に届けるというスタイルで、基本的に事前予約が必要です。どの蔵元でもやっているわけではなく、2024年は日本全国で43蔵が参加、滋賀県では「藤居本家」さんのみが参加(銘柄は「旭日」です)されています。

 「濾過」・「火入れ」・「割水」などの工程を一切行っていない「無濾過生原酒(濾過なし・火入れなし・割水なし)」を、搾ったその日にいただけるわけですので、「立春朝搾り」は究極にフレッシュな日本酒と言えるでしょう。私自身、この「立春朝搾り」を以前何度か飲ませていただく機会がありましたが、そのフレッシュさやジューシーさに感動した覚えがあります。日本酒の外観は熟成酒を除けばクリスタル・シルバーが多いのですが、「立春朝搾り」を含めた「直汲み」のお酒は、グリーンがかったクリスタル・イエローを呈しています。

 さて、私がここで申し上げたいことは、商品としての希少価値や味わいのことではありません。

 「立春朝搾り」は飲み手側からすれば楽しみでしかないかもしれません。しかし、造り手側からすれば、醪を搾るタイミングが立春のその日に決まってしまっているため、それに合わせて酒造りをしなければならず、非常に繊細で神経を使う仕事になります。また、立春当日は早朝から搾り続けるため、夜を徹した作業になります。全国で43蔵しか参加がないのも当然のことでしょう。また、出荷作業の合間には、近隣の神社の神主さんによるお祓いが行われ、この一年の無病息災・家内安全・商売繁盛を祈願します。

 日本酒の勉強を通じて、物事の歴史や背景を知れば、より一層その本質に迫ることができるということを改めて感じます。点数を取るだけの勉強には何の意味もありません。医学の面においても、人を理解する面においてもそれは同様です。学びは決して楽しいことばかりではありませんが、苦労して学んだ先には今までには見えなかった新たな景色が広がり、それが大きな楽しみとなって人をさらに成長させてくれます。

 本日届いたお酒に携わってくださった多くの方々に感謝するとともに、家族そしてスタッフが新たな一年を無事に過ごせるよう祈願しつつ、「立春朝搾り」をいただこうと思います。その背景を知った上でいただくお酒は、今までのそれとは全く別物であるに違いありません。