ある無医村の話
- 2024.06.08
これはある無医村の話である。
その村の人口は2300人。ほとんどが高齢者であり、何らかの疾病を有していた。この小さな自治体にはもちろん病院はなく、診療所はあるのだが、週に1回だけ隣町から医師がやってきて診療に従事していた。
病を有する村人たちは、この週1回の診療を心待ちにしていた。自らの健康がそのたった週1回の診療に委ねられているのだから、それも当然のことであろう。診療所の待合い室はいつも患者さんでごった返し、診療所の外にまで診察を待つ患者さんが列をなしていた。
医師は朝から夜遅くまで、昼の食事休憩どころかトイレ休憩もままならない状況を強いられた。そのような過酷な状況であっても、医師はその使命感で診療に従事し続けた。村人たちにとっての命綱である医師としての使命感を燃やしながら・・・
村人を守るのはこの医師しかいない。一方で、この医師を守ってくれる者は誰もいない。患者さんからの「先生の診察を受けると落ち着く。辞めんといてな。」という言葉は、ありがたいと感じると同時に、精神的に「詰み」の状態へと確実に追い込まれる。
命綱が燃え尽きた時、村人とその医師にはどのような結末が待っているのであろうか?
これは紛れもない、ノンフィクションである。