人が気づかないもの

  • 2024.08.22

 「慣れ」とは怖いものである。私から言わせれば、それは「感覚が鈍る」ということと同義であるからである。「当たり前でない」ことを、「当たり前」だと思ってしまうからである。

 私は開業する前は、お金をもらう立場にあった。毎月自らの口座に入金されることは当然のことであったし、それに対して格別何かを思うこともなかった。

 しかし、経営者になってから、お金を振り込む立場に逆転した。この立場になってみて分かることは、自らの身を削って毎月一定額を保証し続けるということがいかに大変なことかということである。

 お金をいただいていた過去の自分が、いかに感謝の心を忘れていたかということを思い知らされる。経営者にとっての優しさ・思いやりとは、一般的にいう性格の優しさを指すのではなく、他人の人生を保証し続けることそのもの、そして究極にはそれしか指さないのだと思う。しかし、このことを理解できるのは経営者になったことのある者のみなのであろう。

 人は貪欲なものである。そして、愚かなものである・・・・・

 関節リウマチ患者さんの中には、治療が奏功し痛みがほとんどなくなると、最初は「おかげさまでありがとうございます」と感謝の気持ちを言われるが、そのうちに「もう治ったんじゃないかと思います。薬減らしたいです」と言う方がいる。

 誤解のないように言っておくが、医師に対する感謝の気持ちを忘れるなということを言いたいのではない。今在る自分が当たり前なのではなく、今在ることそのものに感謝する気持ちを忘れてはいけないということである。それは患者さんでなくともそうである。こうやって生きていること自体がありがたいことなのである。

 故人との誓い(2022.09.14)でも書いたが、今でも始業前・始業後には必ずこの手紙を読む。人は過ちをおかす生き物である。しかし、正しく省みることを繰り返すことによって、自らを正しい道に進めることができる。経営者は他人が導いてくれるわけではない。ご先祖様への感謝、先人の言葉への尊敬の念を忘れてはいけない。

 感謝の気持ちというものは、その人から滲み出てくるものである。