関節リウマチの診断を血液検査だけに頼る危うさ
- 2025.03.06
本日は久しぶりに関節リウマチ(RA)のお話をしましょう。
当院は主標榜科が「リウマチ科」ですので、初診の方のほとんどが手指のこわばりやいずれかの関節の痛みや腫れを主訴に来院されます。「ネットで色々調べるとRAが心配で・・・」このように訴える方もおられます。
RAかどうかは血液検査をすれば簡単に分かると思っている方が多い印象を受けます。非リウマチ専門医やリウマチ専門医の一部でさえも、同様に考えている人がいます。リウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体を測定し、それが基準範囲内であればRAではない、基準値よりも高ければRAだと短絡的に判断されてしまっているケースが実に多いのです。どの検査も「感度」「特異度」を理解する必要があると、ブログでも何度もお話してきました。RFや抗CCP抗体がともに基準範囲内のRA(血清反応陰性関節リウマチ)はRA全体の約20%を占めますし、RFや抗CCP抗体が基準値よりも高いからといってRAとは限りません。詳しくは、ホームページの「院長の情熱(治療について)→リウマチ専門医・指導医としての視点」を参照ください。
では、リウマチ専門医はどのようにRAを診断しているのでしょうか?RAは関節滑膜に炎症をきたす疾患です。したがって、RA診断の最初のステップとして、「関節滑膜炎の存在」を証明する必要があります。関節滑膜炎が生じると関節滑膜が肥厚するため、その結果関節が腫れます。触診で関節が腫れているのかどうかを確認する作業が最も重要なのです。「触診せずしてリウマチ診療なし」と今までも何度も申し上げているのはこのためです。
しかし、触診で「腫れている」と判断できても、病変が関節内なのか腱や皮下などの関節外なのかの判断が難しいことがあります。また、関節滑膜炎が存在しても関節が深部にある場合、触診で捉えることが困難あるいは不可能なことがあります。一方で、その点を補完してくれるのが「関節エコー」なのです。関節エコーでは関節滑膜炎を滑膜の肥厚そして同部の血流シグナルの増加として、視覚的に捉えることができます。また、関節滑膜炎なのか腱鞘滑膜炎なのか、また皮下の浮腫なのか、病変がどこにあるのかも明確に捉えることができます。
関節滑膜炎を捉えた後は、関節滑膜炎をきたす他の疾患を除外する必要があります。そのためには、問診と身体診察が非常に重要になります。例えば、痛風発作を過去に何度も繰り返している場合には、痛風関節炎は鑑別診断の上位に挙がるでしょうし、乾癬の既往のある方や踵の痛みなどの付着部炎や爪病変を認める場合には、乾癬性関節炎を考えるでしょう。
つまり、RAの診断のため必要な最初のステップは、触診と関節エコーで関節滑膜炎を捉えること、そして同時に問診・身体診察で関節滑膜炎をきたす他の疾患を除外することなのです。したがって、いきなり血液検査をするのではありません。問診・触診を含めた身体診察と関節エコーで血液検査施行前におけるRAの可能性(検査前確率)を見積り、その上で血液検査を施行し、「感度」「特異度」を踏まえた上で、検査後確率がどうなのかを判断をするのです。
数ヶ月毎に何度も何度もリウマトイド因子や抗CCP抗体を測定されているケースをたまにみかけますが、そのようなケースのほぼ全例で、前述の「触診」「関節エコー」「問診・身体診察での他疾患の除外」のステップが全くなされていません。
RAの診断は、典型例を除き決して簡単なものではありません。RAかどうか心配な方は、「触診」「関節エコー」「問診・身体診察での他疾患の除外」をきちんとしてくれる医師にかかるようにしましょう。