故人との誓い

  • 2022.09.14

 父は生前、朝と夜の一日二回、神棚に手を合わせていた。家長として、家族全員がその日一日を無事に過ごせることを祈願し、また一日を無事に過ごせたことに感謝していた。

 私のクリニックでの一日の始まりはどうか?スタッフが来る前に機械類の立ち上げを済ませた後、手を洗ってからある手紙を読む。その手紙は、7年前に50歳で亡くなった患者さんの娘様から、私の開業直前にいただいたものである。

 入院中であったその患者さんと固く手を握りながら、私は一週間後の再会を信じて疑わなかった。しかし、一週間後・・・電子カルテには患者さんの名前はなかった・・・きっとあの時、患者さんはもう私と会えないことを悟っていたのだろう。「先生、たくさんの患者さんを救ってね。」それが、二人の間での最期の言葉であった。たくさんの患者さん・・・その前に、私はあなたの命を救えなかった。

 立派な看護師になられた娘様からの「母も私も先生のことを応援しています。」という励ましの言葉から、お母様とのあの日の誓いを呼び起こす。そして、スタッフが帰った後に、また手紙の前で対話をする。「今日一日、果たして自分は患者さんを救えたのか?もっとうまくできたのではないか?」

 医師としての私が背負っているものは、限りなく重いものである。(主)