医師の実力:お薬手帳から読み取れるもの
- 2023.05.07
抗リウマチ薬には作用機序の異なる多くの薬剤がありますが、メトトレキサート(MTX)ほど医師によって使い方の異なる薬剤はないと思います。他の薬剤、例えばイグラチモド(先発品:ケアラム)であれば、25mgで開始し4週間後に50mgへ増量するかどうか検討しますが、50mgを超えて投与することはできません。つまり、25mgか50mgの2通りしか投与方法がありませんので、医師によって使い方に差が出ようがありません。
一方、MTXは2mgの錠剤(あるいはカプセル)を使って、4mg/週で投与されるケースもあれば、最大16mg/週まで投与されるケースもあり、用量に幅がありますので、医師による使い方に差が出るというわけです。
さて、お薬手帳というと、患者さんからすれば『お薬の処方歴を記したもの』という感覚しかないかもしれませんが、私は全く別の感覚を持っています。・・・・・
他院通院中の関節リウマチ(RA)患者さんが当院を受診される際には、お薬手帳を持参していただいています。発症して1~2年しか経っていないケースでは、薬歴がお薬手帳1冊に収まるので1~2分で目を通すことができます。その医師がどのような思考回路でRAの診断に至ったのか?なぜその薬剤を使用したのか?薬剤を中止した理由は何なのか?・・・など多くの疑問が私の頭を駆け巡ると同時に、その医師のRA診療の実力までもが見えてしまいます。
『関節リウマチにおけるメトトレキサート(MTX)使用と診療の手引き 2023年版』では、「予後不良因子をもつ非高齢者」では、MTX8mg/週での開始を推奨しており、2週ごとに2mgあるいは4週ごとに4mgずつ迅速に増量してもよい。また、副作用危険因子がなく、忍容性に問題がなければ、10~12mg/週まで増量する。と記載されています。私の場合、これに則った形で、70歳未満で腎機能に問題なく肺病変がないケースでは、MTX8mg/週で開始し、2週間後にはMTX12mg/週へ増量、2~3ヶ月後に効果判定を行っています。
先程、『RA診療の実力』と述べましたが、私が目にするお薬手帳は、MTX4~6mg/週で開始され、3ヶ月以上経ってもほぼ増量されず(増量されても8mg/週まで)といったケースがほとんどなのです。お薬は常に副作用に注意しないといけないのは当然ですが、用量非依存性の副作用(MTX肺炎など)は2mg/週であっても生じますし、また中途半端な量を投与しても十分な効果は得られません。
MTXを十分量(10~12mg/週)使って炎症をしっかり抑えること!嘔気や肝障害が出れば、MTX皮下注製剤(メトジェクト)に変更すればいいのです。炎症がしっかり抑えられれば、関節エコーでそれを確認しつつ慎重にMTX減量を検討する。これが、私のMTXに対する現在の考え方です。