メトトレキサート(MTX)10~12mg/週で効果不十分な場合・・・

  • 2023.05.10

 昨日、メトトレキサート(MTX)の効果判定について述べましたが、MTXを開始し、MTX10~12mg/週まで増量しても効果不十分と判断された場合、次の治療戦略はどのようになるでしょうか?

① MTX14~16mg/週まで増量する。

② 他の従来型合成抗リウマチ薬(タクロリムス・イグラチモド・サラゾスルファピリジン・ブシラミンなど)を併用する。

③ MTXの皮下注製剤であるメトジェクトに変更し、12.5~15mgで投与する。

④ 生物学的製剤を併用する。

⑤ JAK阻害薬を併用する。

 上記いずれの選択肢も正解なのですが、患者さんの状態に応じてこれら選択肢間の優先度は変化します。

 関節リウマチ(RA)が中~高疾患活動性であれば、④や⑤(ただし、長期安全性や医療経済を考慮して④を優先します)をまず患者さんに提案します。しかし、RA診療では、「お金」の問題が切っても切れないという現実があります。生物学的製剤もJAK阻害薬もともに高額であり、最も廉価な生物学的製剤であっても、自己負担が3割の場合、年間約19万4千円かかります。

 一方、低疾患活動性であれば、原則として④や⑤を最初に提案することはなく、①~③を検討します。「原則」と書いたのは、これも患者さん個々の状態により判断する必要があるため、「例外」もあるということです。仮に関節炎が1関節のみであっても、どの関節が罹患しているかによって、治療強化の重要性は変わってきます。例えば、小指の1関節と膝の1関節では全く意味合いが異なります。指の重要な機能である「つまむ」という動作は小指がなくても可能です。一方、膝は「荷重関節」であり、人が直立二足歩行をする以上、常に負荷がかかる関節です。ですので、関節炎が右膝関節のみで、他の関節には炎症がなかったとしても、膝関節の炎症が中等度以上であって歩行に支障をきたしているのであれば、④や⑤を提案するということもありえます。

 つまりここで私が言いたいのは、DAS28(ダス28)やCDAI(シーダイ)、SDAI(エスダイ)などの疾患活動性の尺度は、治療方針を選択する上で一つの参考にはなるものの、患者さんの状態を真に映した鏡ではないため、患者さんのどの関節に炎症があって、日常生活にどのような支障をきたしている(=機能障害)のかを、主治医がきちんと見極めた上で治療方針を決定すべきということです。

 話はガラッと変わりますが、①・②・③の選択肢の中では、どれが優先度が高いでしょうか?これについては答えはありませんが、私見を述べますと・・・

① MTX14~16mg/週では、嘔気や口内炎、肝障害が発現しやすくなる。

② 他の従来型合成抗リウマチ薬にも種々の副作用がある。

③ MTX皮下注製剤であるメトジェクトは、MTXの内服と比較し、嘔気や口内炎、肝障害などの発現が低く、血中濃度(AUC)が高くなる。

 上記理由により、昨年11月にメトジェクトが発売されてからは、③の選択肢に大きな期待を寄せております。