関節リウマチと診断することの難しさ
- 2023.07.01
関節リウマチ(RA)診療を行っている医師に、「関節リウマチの診断は簡単ですか?」と質問をしたとします。もし、「そんなのは簡単だよ」と答える医師がいたとすれば、その医師は『真』のリウマチ専門医ではありません。関節のあちこちが腫れていて、リウマトイド因子(RF)と抗CCP抗体が共に非常に高くて、CRPも高い・・・こんな典型的なRAしか診たことがない医師なのでしょう。
どんな疾患でもそうですが、典型的な経過・検査値異常を呈する症例ばかりとは限りません。専門医が専門医たる所以は、非典型例をいかに診断できるかという点にあります。
RAでは手指や手、足趾などの小関節に痛み・腫れをきたすことが典型的ですが、肩や膝などの大関節から発症する例もあり、大関節に症状があると38度以上の発熱を伴うこともあります。また、RAでは週単位や月単位で緩徐に症状が揃ってくることが多いのですが、中には2週間以内に症状が急激に出てくる例もあります。
RFや抗CCP抗体はRAの全例で高くなるわけではありません。両者ともに感度は約70%であり、高齢発症例ではさらにその感度が下がります。つまり、RFや抗CCP抗体が正常という理由だけでRAを否定することはできないのです。先程の典型例しか診たことがない医師は、RFや抗CCP抗体が正常であればほぼ間違いなくRAを否定してしまいます。残念ながらそのようなケースでは、正しい診断がなされずに治療介入する時期が遅れてしまうのです。
非典型例を診断する能力は、同様の症状を呈する他の疾患をどれだけ知っているか、そしてそれらの疾患をどれだけ深く知っているかということに尽きます。伝染性紅斑・B型肝炎などのウイルス性関節炎、痛風・偽痛風などの結晶性関節炎、全身性エリテマトーデスや皮膚筋炎、成人発症Still病、血管炎など・・・非典型例を診断するためには、同様の症状を呈する疾患を除外する高度な作業が必要になるからです。これは正に内科診断学の神髄です。今まで培ってきた臨床経験が問われるのです。
非典型例を診断するには勇気が要ります。遅れて色々な症状や検査値異常が揃ってくることもあるため、時間経過を踏まえて判断しないといけないことも多々あります。このような非典型例をしっかりと診断し、そして治療介入し、その患者さんが良くなることを確認する・・・このような積み重ねが臨床医としての血となり肉となるのです。
リウマチ診療に携わってから15年・・・これからも自らを磨き続ける努力を続けたいと思います。